ゼブラフィッシュモデルを用いた 癌細胞転移抑制効果を有する薬の探索

ゼブラフィッシュモデルを用いた癌細胞転移抑制効果を有する薬の探索

2019年11月21日

 

公益財団法人庄内地域産業振興センター/国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室の中山淨二研究員は、ゼブラフィッシュモデルを用いアドレノステロンが癌細胞転移の抑制効果を有していることを明らかにしました。

この研究成果は、2019年11月20日(水)19時(日本時間11月21日(木)9時)で、Molecular Cancer Research(米国癌学会が発行する専門誌)に掲載されました。

 

 

研究の概要

癌による死亡のほとんどは転移を原因としています。転移とは、癌細胞が最初に発生した場所から肺、肝臓、脳、骨、リンパ節などに移動し新たな腫瘍を形成することをいいます。癌細胞転移は多段階の複雑な過程(隣接する組織への浸潤、血管やリンパ管内への侵入、血液やリンパ液中での遊走、別の臓器や器官への侵襲、新たな腫瘍の形成)を経て進行します。各過程を制御する分子機構はほとんど未解明で、それ故に癌細胞転移を抑制する薬の開発は遅れています。

本研究は小魚類の一種であるゼブラフィッシュ(注1)から癌細胞転移を自然発症するモデルを作出し、同モデルを利用して癌細胞転移を抑制する薬を探索しました。その結果、アドレノステロンという現在は脂肪減少及び筋肉増強のサプリメントとして販売されている既存薬(注2)が同抑制効果を有していることが明らかになりました。同薬はコルチゾールというホルモンを作り出す11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD11b1)という酵素を競合的に阻害します。同酵素は通常、副腎、肝臓、脂肪組織及び中枢神経系のみで発現していますが、マウスに移植した時に高頻度且つ敏速に転移を示す乳癌、皮膚癌、膵癌、大腸癌及び前立腺癌細胞株で同酵素の発現が亢進していました。同薬はこれら細胞の移動及び浸潤を濃度依存的に抑制し、また、これら癌細胞をゼブラフィッシュに移植した癌転移モデルでも同薬は癌細胞転移抑制効果を示しました。

癌細胞は原発巣から隣接する組織に移動及び浸潤する際、上皮間葉転換(Epithelial to mesenchymal transition: EMT)と呼ばれる上皮系形質から間葉系形質に一時的に変わる現象を誘導することが知られています。同薬はEMTを誘導して間葉系形質を有している高転移性を示す乳癌細胞を上皮系形質に戻すことで癌細胞転移を抑制していることが明らかになりました。

注1)

ゼブラフィッシュ(学名Danio rerio)は脊椎動物のモデル実験動物として近年認知されはじめています。中枢神経系、骨髄、心臓、肝臓、消化管、皮膚などの主要臓器や器官を持ち、ヒト癌遺伝子をそれら臓器に発現させると腫瘍を形成するので癌モデルとして用いられています。

 

注2)

近年、既存薬を本来の対象疾患以外の疾患の治療薬として使うための研究が発展しています。これはドラッグリポジショニング(Drug Repositioning)と言われています。

 

 

【公益財団法人庄内地域産業振興センター】

所在地: 山形県鶴岡市末広町3-1

代表者: 理事長 皆川治

 

【国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室】

所在地:山形県鶴岡市覚岸寺水上246番地2