肺がんにおけるDNAのヌクレオチド生合成に重要な酵素に関する論文発表

肺がんにおけるDNAのヌクレオチド生合成に重要な酵素に関する論文発表

 

 公益財団法人庄内地域産業振興センター (理事長:皆川治、鶴岡市末広町、以下産業振興センター)、国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室の牧野嶋秀樹チームリーダーの研究グループは、この度、肺がんにおけるDNAのヌクレオチド生合成に重要な酵素に関する論文(De novo deoxyribonucleotide biosynthesis regulates cell growth and tumor progression in small-cell lung carcinoma)を英国の電子ジャーナル誌Scientific Reports (nature research)誌に2021年6月29日10時(日本時間6月29日19時)発表されます。

 

1.背景

遺伝情報を受け継いでいる遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)という名前の物質により構成されています。細胞増殖が盛んながん細胞ではDNAの生合成が盛んに行われており、我々研究チームはがん細胞におけるDNA生合成の制御機構の解明を目指して、がんの研究を推進しております。このDNAの基になるデオキシリボヌクレオチドは、RNA(リボ核酸)を構成するリボヌクレオチドから生合成されます。その時に、リボヌクレオチドからリボースの酸素原子を還元反応で除去し、デオキシリボヌクレオチドの合成反応を触媒する酵素、リボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)の機能に着目しました。

 

2.概要

今回発表された論文では、肺小細胞がん*1細胞株において、RNRのサブユニット*2であるRRM1遺伝子を、RNA干渉(siRNA)*3を用いて遺伝子発現を抑制し、RRM1の機能を解明しました。RNRの機能不全により、培養容器内での肺小細胞がん細胞増殖の低下、生体内での肺小細胞がんの腫瘍形成能の低下、DNA損傷応答の誘導と細胞周期の停止、RNRにより制御される代謝産物が明らかになりました。慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)との共同研究でもあります。

 

3.今後の課題

RNRを標的とする抗がん剤は、現在複数開発中であり、今後臨床への応用を目指します。産業振興センターおよび国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点において、がんのメタボローム解析*4を推進しており、RNR阻害剤のバイオマーカー*5探索を行います。今回の論文が、がんの核酸代謝経路を標的とする新規治療法開発に繋がることが期待されます。

 

※1 肺小細胞がん
肺がんの一種で、喫煙歴と関連、細胞増殖が盛ん、進展が速いがんです。化学療法に感受性が比較的高いが、再増悪や転移が生じ、新規治療法の開発が要望されている。

※2 サブユニット
他のタンパク質と会合して酵素等の多量体タンパク質を形成する単一のタンパク質分子

※3 RNAの分
遺伝子発現を抑制する手法。siRNAは、small interfering RNAの略

※4 メタボローム解析
生体内に存在する代謝産物を網羅的に解析すること。

※5 バイオマーカー
生体内の物質で、病気の診断や治療効果に相関し、指標となるもの。

 

<参考資料>

【公益財団法人庄内地域産業振興センター】
所在地: 山形県鶴岡市末広町3-1
代表者: 理事長 皆川治

 

【国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室】
所在地:山形県鶴岡市覚岸寺水上246番地2