小細胞肺がんにおけるプリン核酸生合成の代謝特性に関する論文発表

小細胞肺がんにおけるプリン核酸生合成の代謝特性に関する論文発表

2023年10月3日 

公益財団法人 庄内地域産業振興センター
国立研究開発法人国立がん研究センター

 

 公益財団法人庄内地域産業振興センター(理事長:皆川 治、鶴岡市末広町)、国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室の牧野嶋チームリーダーの研究グループは、この度、小細胞肺がんにおけるプリン核酸生合成の代謝特性に関する論文(Metabolic hallmarks for purine nucleotide biosynthesis in small-cell lung carcinoma)をアメリカがん学会の機関誌Molecular Cancer Research 誌で2023年9月29日に発表しました。

 

研究成果のポイント

l  プリンサルベージ経路の酵素HPRT1は、小細胞肺がんの増大に重要であり、治療標的として有望であることが判明しました

l  小細胞肺がんには、プリン核酸合成においてデノボ経路を好んで利用する細胞とサルベージ経路を利用する細胞が存在し、代謝多様性があることを見出しました

 

【背景】
 多くのがん細胞は活発に増殖するために、核酸(デオキシリボ核酸:DNA と リボ核酸:RNA の総称)を大量に合成しています。1960年代から、がんの核酸合成を標的とした抗がん剤の研究が精力的に進められており、これまでに複数の抗がん剤が開発されています。その研究は、近年開発が進められているがん分子標的治療薬や免疫療法の研究に比べて長い歴史がありますが、がんの核酸合成の制御メカニズムは複雑で、未だ十分に解明されていません。我々の研究チームは、先端的メタボローム解析*1 を用いて、がんにおける核酸代謝の制御メカニズムを明らかにし、新たながんの治療法の開発につなげることを目指しています。

小細胞肺がん(SCLC)*2 は、悪性度の高いタイプのがんで、5年間生存できる確率も10%未満です。そのため、SCLCの新しい治療法の開発が切望されています。近年、SCLCのプリン核酸*3 合成のデノボ経路*4 が、新規治療標的として注目されています。しかしながら、プリン核酸の生合成は、デノボ経路とサルベージ経路*5 の二つがあり(図1)、とくにSCLCのサルベージ経路の役割についてはよくわかっていません、。今回の研究では、SCLCのプリン核酸デノボ経路および、サルベージ経路の役割を包括的に検証しました。

【概要】
SCLCにおけるプリン核酸の合成経路について調査し、サルベージ経路の中心的な酵素であるHPRT1*6 (図1)を阻害するとSCLC 腫瘍の成長が抑えられることを明らかにしました。一方、プリンデノボ経路を阻害する葉酸代謝拮抗薬を用いた検討などから、SCLCは(プリン核酸を合成する時に)デノボ経路を好んで利用する細胞とサルベージ経路を利用する細胞が存在することが判明し、プリン核酸合成の多様性が示唆されました。そのため、HPRT1の阻害は、サルベージ経路を好んで利用するタイプのSCLCで、とくに高い腫瘍抑制効果を示しました。これらの結果は、SCLCにおけるプリン核酸代謝の制御メカニズムの理解および、新しい治療戦略の開発に役立つと考えられます。また、本研究成果は、慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)との共同研究で明らかにできました。

【今後の課題】
本研究では、HPRT1が
SCLC治療の有望な治療標的であることを見出しました。とくに、プリンサルベージ経路依存性の小細胞肺がんを判別して、HPRT1を阻害することができれば、高い抗腫瘍効果が期待できます。近年では、新しい高活性のHPRT1阻害剤の開発も進んでいるので、今後はそれらの薬剤を使用したSCLC治療の臨床応用を目指します。また、プリンサルベージ経路依存性のSCLCを選別できるバイオメーカー
*7 の開発も進めていきたいと考えています。


図1.プリン核酸の生合成経路
PRPP:ホスホリボシルピロリン酸、IMP:イノシン酸、ATP:アデノシン三リン酸、GTP:グアノシン三リン酸。


 

用語 
※1 メタボローム解析 
細胞や組織に含まれる代謝物質の量や種類を網羅的に分析する手法のこと。 
※2 小細胞肺がん(SCLC) 
肺がんの一種で、喫煙歴と関連、細胞増殖が盛ん、進展が速いがんです。化学療法に感受性が比較的高いが、再増悪や転移が生じ、新規治療法の開発が要望されています。 ※3 プリン核酸 
プリン骨格を持った核酸。核酸には、プリン骨格とピリミジン骨格をもった二つのタイプがあります。 
※4 デノボ経路 新生合成経路。アミノ酸などから、新たに核酸を合成する経路(図1)。 
※5 サルベージ経路再利用経路。核酸の分解物(ヒポキサンチンなど)が再利用される経路。 
※6 HPRT1 
ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ 1。プリンサルベージ経路の代謝活性を決める重要な酵素の一つ。 
※7 バイオマーカー 生体内の物質で、病気の診断や治療効果に相関し、指標となるもの。

 


【公益財団法人庄内地域産業振興センター】
所在地:山形県鶴岡市末広町3-1 
代表者:理事長 皆川 治 


【国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室】
所在地:山形県鶴岡市覚岸寺水上246-2

 

<研究に関するお問い合せ先>
国立研究開発法人国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点
庄内地域産業振興センター がんメタボロミクス研究室 
研究員 田畑 祥
電話番号:0235-64-0980  FAX0235-64-0981 
Eメールinfo@ncc-tmc.jp

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37773022/

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