悪性度の高い急性白血病 がん化メカニズムを解明

 国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)と国立大学法人京都大学(総長:山極壽一、京都府京都市)は、悪性度が高く乳児に多いMLL遺伝子変異を伴う急性白血病について、がん化を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明し、同成果をもとに分子標的薬2剤による併用療法で高い抗腫瘍効果が期待できることを実験的に証明しました。 本研究は、国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室横山明彦と京都大学との共同研究で、米国の科学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」での掲載に先立ち、オンライン版(4月10日付:日本時間4月11日)で掲載されました。

 急性白血病は、白血球の成長途中の幼若な段階で遺伝子異常が起こり、がん化した細胞(白血病細胞)が無制限に増殖することで発症します。MLL遺伝子に変異を持つタイプは、急性白血病症例全体の5~10%でみられ、特に乳児の急性リンパ性白血病に多くみられます。MLL変異が無いタイプの生存率が90%であるのに対し、変異を持つタイプの生存率は約40%と極めて低く、新しい治療法の開発が強く望まれています。しかし、これまでがん化における分子レベルのメカニズム解明に至っておらず、有効な治療法が見出されていませんでした。

 本研究成果について、国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科長の小川千登世*は次のように述べています。「予後不良なMLL遺伝子に変異を持つ白血病の病態を解明するとともに、二つの阻害剤を併用することで高い抗腫瘍効果を示した報告であり、実際の治療に結びつく可能性のある意義の高い研究成果と考えます。今回の基礎研究を経て、実際の患者さんの治療開発へとつながることを期待します。」

*本研究に対しての利益相反はありません。

 

【研究手法と成果】

MLL遺伝子変異を伴う急性白血病について、がん化を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明

MLL遺伝子の変異を持つ急性リンパ性白血病では、MLL変異体タンパク質が産生され細胞内のさまざまなタンパク質と結合し、遺伝子を異常に活性化することで細胞をがん化することが分かっています。

研究チームは、がん化のメカニズムを解明するため、クロマチン免疫沈降法を用いて、MLL変異体タンパク質の一つであるMLL-ENLとその結合タンパク質であるAF4やDOT1Lが局在するゲノム領域を同定しました。その結果、MLL-ENLはAF4をがん関連標的遺伝子上にリクルートしており、その近傍にDOT1Lも局在することを明らかにしました(図1)。また、マウスにおいて白血病を引き起こす病態モデルを用いて、MLL変異体タンパク質が白血病を引き起こす上で必要な構造を調べることで、MLL-ENLやMLL-AF10といったMLL変異体タンパク質がAF4とDOT1L両方を介して、遺伝子の異常な活性化を起こしていることを見出しました。AF4とDOT1Lは異なる働きを持っていますが、それぞれが相補的に働くことで遺伝子の発現を強く活性化し、がん化が引き起こされることが分かりました。

 

分子標的薬2剤による併用療法で高い抗腫瘍効果が期待できることを実験的に証明

先の研究成果を踏まえ、MLL変異体タンパク質の複合体形成を阻害する薬剤とDOT1Lの酵素活性を阻害する薬剤の併用について検討を行いました。MLL複合体形成を阻害するMI-2-2という分子標的薬は、MLL-ENLとMENINという結合因子の相互作用を阻害することで、AF4が標的遺伝子上にリクルートされることを妨げます。DOT1Lはヒストンをメチル化することで遺伝子の活性化状態を維持する働きがありますが、その酵素活性を阻害するEPZ-5676という分子標的薬はDOT1Lの作用を妨げます。単剤ではあまり効果のない低濃度でも2剤を併用すると、MLL白血病細胞の増殖を効率的に阻害し、分化を誘導しました(図1)。また、3日間、2剤に暴露させた白血病細胞をマウスの体内に移植した場合、ほとんど白血病を起こさないことを見出しました。これらの実験によって、AF4とDOT1Lの活性が同時に阻害されると、高い抗腫瘍効果が得られることを確認しました。

図1 MLL変異体タンパク質による白血病化のメカニズム

MLL-ENLによる転写活性化メカニズム(左)。 MLL-ENLはENL部分を介してAF4をリクルートして遺伝子の発現を活性化する。さらにDOT1Lをリクルートして遺伝子の活性化状態を維持する。MI-2-2によりMLL複合体が形成されなくなるため、AF4がリクルートされなくなる。また、EPZ-5676によってDOT1Lの酵素活性が失われ、遺伝子の活性化状態の維持ができなくなる。AF4とDOT1Lは協調的に働いており、2者を同時に阻害すると白血病細胞の増殖が著しく低下する(右)(当該文献から引用)。

 

【今後の展望】

今回、MLL変異白血病細胞にMLL複合体形成阻害剤とDOT1L酵素活性阻害剤を併用すると、AF4とDOT1Lの活性が同時に阻害され、その結果白血病細胞を著しく減少させることが示されました。現行の治療法ではMLL遺伝子の変異を持つ白血病は予後不良であり、将来的にこの二つの分子標的薬の併用療法が有効な治療法として確立され、患者さんの治療に役立つことが期待されます。

 

【発表論文】

雑誌名:     The Journal of Clinical Investigation
タイトル:    Cooperative gene activation by AF4 and DOT1L drives MLL-rearranged leukemia
著者:        奥田博史、スタノエビッチ・ボバン、金井昭教、川村猛、高橋慧、松井啓隆、高折晃史、横山明彦

 

【研究費】

科学研究費補助金 科学研究費助成事業
「MLL白血病の分子基板に基づく新規治療法の開発」
大日本住友製薬:DSKプロジェクト研究経費

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